これは私が友人から聞いた話です。思い出しながら語ってくれたものを以下に整理して記します。私には、幼いころから他の人には見えないものが見えていました。その多くは私に幸せをもたらしましたが、中には不幸を連れてくる恐ろしい存在もありました。涼しい風が吹いて過ごしやすかった晩夏の日、私はお友達に連れられて山に来ていました。中腹にある展望台からは私達の住んでいる街が一望でき、夕日も相まって素晴らしい景色でした。遅くなりすぎないうちに帰ることにし、お友達と共に山を下りているとビックリマークだけの標識があります。こんなもの登ってきたときにはあっただろうかと不思議に思いながら通り過ぎると、「ケト、ケト、ケト」と不思議な音が聞こえてきました。思わずその方向を見ようとした時、お友達が「振り返るな」と叫び走り出しました。「あれはここで走っていた人間の霊だ」「追い付かれてもダメ、追い抜いてもダメ、とにかく走れ」とお友達が言います。あの時は必死で意識していなかったのですが、音は後ろからだけでなく、前や横や周囲の全てから聞こえていたようです。走ったまま山を降りていくとお友達が叫びました。「後ろの奴が前の奴を追い抜こうとしている」。私は血の気が引いていくのを感じました。後ろに追いつかれないようにすれば前を追い抜いてしまい、前を追い抜かないようにすれば、後ろに追いつかれてしまいます。お友達は少し考えた顔をして再び叫びました。「私が後ろの奴を食い止める。君はそのペースのまま走り続けろ」。私はその言葉に従いました。より正確に言うとただ一つ信じられるその言葉に縋りました。どれくらい時間が経過したか分かりませんでしたが、気がつけば私は山の麓にいました。そのまま自分の家に帰りすべての鍵を固く閉めて部屋にこもりました。朝になるとお友達が変わらぬ姿で部屋の隅にいて、私は心の底から安堵しました。これで私の話はおしまいです。「どうしてお友達は無事だったのか」ですか。推測ですがあれは生きた人間を襲う存在だったからだと思います。はい、そうです。「生きた」人間です。「お友達は今どこに」ですか。ずっと私の横にいますよ。
霊と共に

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